第3回水谷雅一賞 審査講評
第3回の本年度は、2022年度発行の学会誌(第31回)及び『サステナビリティ経営研究』掲載論文を対象に、<論文賞>として優秀賞1本、奨励賞3本を授与した。また、<書籍賞>については、残念ながら今年度は優秀賞、奨励賞共に「該当なし」となった。以下に受賞論文の著者及び論文名を記す。
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<論文・ジャーナル部門>(所属・敬称略)
優秀賞:杉山 佳子 「日本的経営と転職の2つの意義:経営層の女性のケースから」
奨励賞:小室 達章・高浦 康有 「非営利組織における不正の探索的データ分析」
田中 敬幸 「AIと倫理:文献研究と今後の発展可能性の検討」
井上 直美・武内 進一 「アフリカ農村部における企業と人権―シエラレオネの事例から」
<書籍部門>
優秀賞、奨励賞とも該当なし
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論文賞について、今回の審査対象論文はそれぞれ審査員からの評価が高く、今後のわが国、若しくは世界の国々にとっても、将来大いに貢献するであろうことが予見できるものであった。その為審査は非常に難しいものとなった。今回の審査は過去3回で初めて「2次審査」まで行われ、審査員全員が対象論文を再読し、最大5点法(1位から5位の順位付け)を行う「審査員投票」によって、最終的に今回の結果になった。候補論文のどれも、今までにわが国では深く扱われたことない、若しくは新しい領域の研究分野である。杉山論文では質的研究法によって「これまであまり解明されてこなかった内部登用女性役員のキャリアプロセスについて、転職経験及び日本的経営に見られるマネジメント制度との関係で実証的に明らかにしようとしており、その意義は極めて大きい」との審査員のコメントが付されている。優秀賞、奨励賞の4論文は全ての経営倫理研究者、実務担当者が一読すべき玉稿であると申しあげておく。
また、書籍賞については、残念ながら今年度は優秀賞、奨励賞共に「該当なし」となった。しかし、ノミネートされた3冊のうちの単著2冊はそれぞれその専門分野では高評価に値するが、その専門分野での貢献が高く、力のはいった著書だからこそ「経営倫理分野」に焦点を絞った評価では限定的であると判断された。また、もう1冊も本学会の新進気鋭の研究者による共著書で相応の高評価を与えうるが、本学会役員や審査員も多く執筆している為、結果として、最も慎重な判断であろう「該当なし」とした。
今後の「水谷賞」の将来への課題として、次回以降より多くの応募書籍を審査対象とする改善策を考えねばならないであろう。加えて、本学会のファウンダーである水谷雅一会長と本学会の前身である「経営倫理を考える会」を立ち上げられた先達研究者達の理念・価値観と、最先端の研究テーマや国際的展開を視野に入れた領域の、いわば「不易流行」のバランスの取り方が今後の本賞の発展の鍵になると今年度の選考審査を通して実感した。
「水谷雅一賞選考委員会」委員長・理事 岡部幸徳(帝京平成大学 教授)