日本経営倫理学会

理事コラム「経営倫理の窓から」

カーボンニュートラル時代に向けた経営倫理(副会長 蟻生俊夫)

 18世紀後半、英国の機械技術者J.ワットによって蒸気機関の発明・改良があり、それまで人間や家畜に頼っていた労力が機関の動力に変わっていった。これにより、生産性向上にもとづく工業化が飛躍的に進展し、いわゆる産業革命をもたらした。産業革命とは、地球に埋蔵されている石炭を動力に変えたエネルギー革命とも見なせる。
 その後、石油、原子力といったエネルギーも加わり、人類の移動距離、経済活動は継続的に拡大してきた。そして、無限とも見なされたエネルギーの供給を反映し、企業は拡大再生産を主眼とし、売上成長率の上昇が重要な経営目標となった。この中での経営倫理は、企業の社会的責任(CSR)に代表されるように、経済的責任や法的責任をベースに、まわりのステークホルダーに迷惑をかけない、他者に配慮することを対象に発展してきた。ここでは、企業が経済的目的と社会的目的の両面を追求する存在として、コンプライアンス、人権配慮、公害対応、社会貢献などが主要な研究テーマとなった。
 さらに近年になると、猛暑や豪雨といった異常気象、海面上昇による水没危機、野生生物の絶滅など世界的に地球温暖化問題がクローズアップされている。この地球温暖化への対策には、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」と、被害を回避・軽減すべく人間社会のあり方を調整する「適応」の2つがあげられる。
 温暖化の緩和策では、温室効果ガスの排出量を可能な限り抑え、排出されたものは吸収または除去することで差し引きゼロとする「カーボンニュートラル」の実現が目指されている。カーボンニュートラルでは、温室効果ガスの削減を前面に考えれば、江戸時代といった昔の生活に戻ることも選択肢の一つであろう。他方、現在の一定の生活水準の維持を前提とすれば、従来の取り組みの延長ではなく、抜本的排出削減を可能とする技術や、社会経済システムの変革などのイノベーションを必要とする。
 また、適応策では、有限な資源、エネルギーを前提とし、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3Rへの取り組みが不可欠となる。これは、企業にとってはサステナブル経営、消費者にとってはエシカル消費など、大きな変革を迫ることになる。これらは、ともすれば経済活動の制限などネガティブに考えがちである。逆にポジティブにとらえると、自然災害に対するインフラ強靱化、食糧安定供給、エネルギー安定供給、感染症の予防・対策など、企業にとっての大きなビジネスチャンスとも見なせる。
 地球温暖化を緩和、適応する企業社会では、現時点では予測もできない技術革新に期待した「後生可畏」で対策を後回しにするのでなく、50年後、100年後、永劫無極といった時間軸を視野に入れた対応が求められる。カーボンニュートラル時代の経営倫理では、これまでの現時点で企業をとりまくステークホルダーへの対応に加え、将来まで含めた世代間にわたる公平性の視点を考慮することを忘れてはならない。
 (電力中央研究所企画グループ上席・白鴎大学経営学部兼任講師)
 2022年3月2日