会員マイページ

日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

CSR、ESG、サステナビリティ、SDGs等とコンプライアンス(常任理事 浜辺 陽一郎)

 1990年代にコンプライアンスが日本の企業社会で注目されるようになってから30年以上が経過した。様々な局面でコンプラインスが叫ばれ、多くの企業で積極的な取り組みが進み、近時、CSR、ESG、サステナビリティ、SDGs等もソフトローとして、コンプライアンスの要素として加わるようになってきた。
 しかし、それらはコンプライアンスとは別物ではないかという見方もあるかもしれない。「コンプラインス経営」とは別に同様に、CSR経営、ESG経営、サステナビリティ経営等といったものも提唱されている。そして、「ソフトローは法令とは認めない」という人達もいるが、法令と認められなくとも、ソフトローの力はハードローよりも強いことがある。不祥事を起こした会社は、罰金によって倒産するのではなく、市場から否定されることによって退場を余儀なくされることを考えれば、ソフトローの強さは、ハードローを遙かに凌ぐ。
 ソフトローも社会的な規範であり、ハードローである法令とソフトローが相互に補完し合いながら、組織を規律するものである以上、企業はこれに背を向けることはできない。また、ソフトローがハードローの解釈運用に影響を及ぼすこともあるため、リーガルリスクマネジメントの観点からの重要性は増している。結果として、法務部門も、ソフトローが無視できない存在となった。
 コンプライアンスの議論では、組織における実効性をいかに確保するかに着目する。法を強制するのと同様に、いかに規律を実現するかという課題に向けた組織的な取り組みが、コンプライアンスである。CSR、ESG、サステナビリティ、SDGsが絵に描いた餅に終わらないように、企業を統治する切り口として、コンプライアンスへの組み込みが求められるといえよう。
 現代の西側の企業倫理が、自由主義陣営の価値観の延長線上にある以上、様々な社会悪や不正との大きな闘いにおいて、常に実効性の確保するための仕組みが課題となる。コンプライアンスの目的が企業の健全な発展のためである以上、企業のパーパス等から始まり、CSR、ESG、サステナビリティ、SDGs等の提言や目標、手法等を取り込んで、企業全体として幅広く展開していくことが不可欠であるという視点から、企業の健全性確保のためのコンプライアンスの再構築が期待されよう。
(青山学院大学 法学部教授/弁護士法人早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士)
 2022年12月8日

役員コラム「経営倫理の窓から」