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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

日本企業のジェンダー平等(203030は実現できるのか)(理事 斎藤悦子)

 1980年代後半に学生時代を過ごした。バブル経済の真っ只中、大学院に進学することを決め、企業文化論を研究テーマとした。『エクセレント・カンパニー』や『シンボリック・マネージャー』といった書籍に心を熱くし、人々を仕事に駆り立て、行動や考え方まで企業の色に染めていく魔法のような企業文化を解明したいと考えた。E.H.シャインの組織文化論を軸に修士論文を執筆した。経営倫理は、シャインの枠組みを借りれば、企業が環境や時間や空間、人間性、人間関係などの本質をどのように捉えるかを価値レベルに引き上げたものと考える。修士論文を完成させた90年、一足早く就職した女性の友人たちがそわそわし始めた。1986年に男女雇用機会均等法が施行され、いよいよ女性にも活躍の場が開かれたと意気揚々と社会に出た彼女たちが、退職して結婚するという。「なぜ、働き続けないの?」という私の問いに「本当は働き続けたいけれど・・・」と沈黙する。日本企業の企業文化は企業で働く人間の本質を考えるからこそ、経済発展を遂げてきたのではなかったのかと考えた時に、ジェンダーの問題にたどり着いた。博士論文は企業文化の中のジェンダー問題の解明をテーマとした。 
 それから30年近くが経過した現在、女性が働く環境は変化したであろうか。結婚による退職はさすがに減少したようだが、第1子を出産した女性の約4分の1がいまだに退職している。経済分野の立ち後れは国際的にも問題視され、政府は女性活躍推進法を施行し、企業の女性活躍情報の公表を行っている。こうした取り組みを通して「2030年までに指導的な地位に占める女性の割合を30%程度とする」(略して203030)ことを目指している。私も203030の実現を視野に、現在、指導的地位に女性が至るまでのキャリアプロセスを研究テーマとし、指導的地位に達する前段階の女性たちの採用状況について検討したいと考えている。雇用機会均等法で性差別が禁止されている採用場面であるが、新規採用でさえ女性と男性の数がイコールではないことから、その理由を考察していくつもりだ。
(お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 教授)
 2023年10月9日

役員コラム「経営倫理の窓から」