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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

スピリチュアリティと経営倫理(理事 狩俣正雄)

 スピリチュアリティ(spirituality)の問題については、宗教、医療、看護、哲学、心理学等多くの分野で広範囲に議論されている。そして、それは近年では米国を中心にビジネスの分野でも議論されている。しかし、わが国では、経営倫理を含めてビジネスの分野では十分に議論されていない。
 Ken Wilberによると、スピリチュアリティは、大別すると①意識の変容状態(悟りなど)、②意識の発達の最高レベル、③認知、感情、倫理といった領域の一つのラインで、その人にとっての究極の関心、として捉えられているが、人々がどの定義かを特定しないで議論していることがスピリチュアリティの問題を混乱させている。そして、多くの人々は、合理的思考以前の自集団、自宗教中心の神話レベルの考えでスピリチュアリティを捉えており、その結果、スピリチュアリティは幼児的なもの、嘲笑されるもの、いかがわしいものとされ、スピリチュアリティの問題の重要性を認識してこなかったとしている。すなわち、スピリチュアリティを神話レベルの意識で捉えていることで、人間にスピリチュアルな知性(ライン)があるとは考えず、人間をスピリチュアルな存在として認めなくなったということである。そのため、職場で、長時間労働、過度のストレス、鬱、過労死、パワハラなどの精神的、倫理的な問題が深刻になっても、それらの問題を十分に認識し解決できていないのである。
 スピリチュアリティを①や③として捉えることも、経営倫理と密接に関わるが、ここでは②との関係で述べる。人間の意識の発達には、自己中心、自集団中心、世界中心、宇宙中心等のレベルがあるが、人はその発達レベルでしか社会の事象を認識し解釈し理解することしかできない。もしそうであるならば、経営者がビジネスでどのように行動するかは、その発達レベルによって規定されることになる。特に、経営者の倫理の発達レベルは企業の倫理的行動を規定するようになる。そこで、スピリチュアリティの視点から経営者の倫理行動を分析することが経営倫理の本質を解明できるように思われる。経営倫理の研究者が、経営者(組織成員)の意識の発達ないし倫理の発達とスピリチュアリティとの関係に関心を向け、その発達レベルの視点から経営倫理の問題を分析することが経営倫理の本質を解明し、高い倫理観に基づいて行動する企業(組織)の特徴を明らかにできるのである。

 滋慶医療科学大学大学院客員教授・大阪公立大学名誉教授・博士(経営学)
 2023年8月25日


役員コラム「経営倫理の窓から」