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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

日本企業とサステナビリティ経営(副会長 ESG投資・SDGs研究部会長 小方信幸)

 わが国ではESG投資が急速に発展している。一方、上場企業の経営者は、ESG投資家との建設的な対話を通じて、持続可能な成長の実現が求められている。
 2014年に、金融庁による日本版スチュワードシップ・コード(SSコード)が制定され、経済産業省は所謂「伊藤レポート」を発表した。翌2015年にはコーポレートガバナンス・コード(CGコード)が制定された。このように、政府主導でサステナブルな投資と経営の土台が着々と作られた。さらに2015年9月の国連総会で、安倍首相(当時)は持続可能な開発のための2030アジェンダへの賛同と、世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund, GPIF)が国連の責任投資原則(Principle for Responsible Investment, PRI)に署名することを表明した。また、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」を推進する方針を示した。
 その後、SSコードとCGコードは制定から3年毎に改定が行われている。本年4月、東京証券取引所は上場基準の厳しいプライム市場を創設した。このように、上場企業に対する要求水準は益々高くなっている。そして、上場企業のIRやサステナビリティ推進の部署で働く人達が疲弊しているように見える。また、一連の政府の政策に対し受け身で部分的な対応に追われ、「やらされ感」が蔓延しているのではないかと危惧する。
 しかし、企業の経営者と従業員の方達には、なぜ政府がこのような政策をとるのかを考えて欲しい。1990年のバブル崩壊以降、「失われた20年」または「失われた30年」と言われているように、国際社会における日本の経済と企業のプレゼンスは著しく低下している。一方、リーマンショック以降に市場原理主義の限界を感じた欧州企業は、気候変動や人権などの経済外部性を自社内に取り込む経営に大きく舵を切っている。実際に、ネスレ、ユニリーバなどの企業は、社会的価値と経済的価値を創造するサステナブルな経営を実践している。そして、日本企業はこれらの欧米グローバル企業に「周回遅れ」と言われて久しい。
 日本の経済と企業が復活するためには、まず、欧州企業の経営を精緻に分析する必要があるのではないか。また、サステナブルな経営を実践している、欧州の企業文化も学ぶ必要があると考える。優れた欧州企業を手本として模倣から始めることは、初期段階では有益であり、恥じる必要はないと考える。明治維新時の日本人は西洋諸国から多くを学び先進国の仲間入りを果たした。現在の日本企業と欧米企業のギャップは、明治維新時の日本と西洋諸国との国力の差に例えることができよう。それくらいの危機感が必要と考える。
 取締役会改革、気候変動、ダイバーシティ、人的資本などの課題に、受動的で部分的な対応では不十分である。明治維新時の日本人が西洋諸国に学んだように、真摯な態度で模範となる欧州企業の全体像を研究することが、日本の経済と企業の復活につながると考える。 
 そういう筆者も、微力ながら、当学会の『サステナビリティ経営研究』のビジネス論稿や書籍出版などを通じて、日本におけるサステナビリティ経営の啓発に努めたい。私事ながら、サステナブルな投資と経営の研究をライフワークとする所存である。
 (法政大学大学院政策創造研究科教授・博士(経営管理))
 2022年6月14日


  
 

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