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日本経営倫理学会

理事コラム「経営倫理の窓から」

法務コンプライアンス部門、CSR部門の変遷と社会安全政策論への示唆 (常任理事 サステナビリティ経営研究 編集委員長 髙野一彦)

 近年、企業における法務コンプライアンス部門、CSR部門のプレゼンスの向上が顕著である。
 企業の法務部門の実態調査は、永年にわたり商事法務研究会・経営法友会が行ってきた。同調査によると1970年代、多くの企業の法務部門は、紛争処理と契約実務といった臨床法務を中心に業務を行っていた。1976年の同調査報告では、大手企業の経営者が法務事項を「よきにはからえ程度の意識」と述べており、当時の法務部門のプレゼンスを垣間見ることができる。ところが1980年代になるとハネウェル特許訴訟(1987年)、東芝機械ココム規制違反事件(1987年)などの国際的な事件が相次いで発生した。法務部門はその重要性が認識されるようになり、予防法務、戦略法務の機能を加えて発展した。そして2005年成立の会社法を契機に、多くの企業は法務部からコンプライアンス部門を分離独立させている。
 一方、2002年に日本経済団体連合会は「企業行動憲章」を改定し、企業が遵守すべき10の原則を示した。日本経団連加盟企業の多くは、この頃、CSRの専門部署を新設している。当初、コンプライアンス部門、CSR部門は社内のプレゼンスが高いとは言い難かった。当時のスタッフ部門の花形といえば、経営企画部や経営戦略部などであり、コンプライアンス部門やCSR部門は、コストはかかるが利益を生まない専門部署という意味で「コストセンター」などと称されたこともあった。
 20年が過ぎ、近年はコンプライアンスやCSRを経営の柱に据える企業が散見されるようになった。例えば、グローバルに事業を展開する製薬会社C社は、2017年に「サステナビリティ推進部」を、またセラミックN社は2020年に「ESG推進統括部」を新設し、いずれも長期経営計画の立案に携わっている。「コストセンター」と称されていた部門が、企業の価値創造プロセスに関与することは隔世の観がある。
 先進企業がコンプライアンスやCSRに積極的に取組むようになった要因のひとつに、サステナブル投資・ESG投資の飛躍的な拡大があると考えられる。企業経営の本質的な目的は企業価値の増進であり、上場企業において株価は経営者の手腕を評価する重要な指標であることは論を俟たない。つまり、コンプライアンスやCSR活動の推進が経営の目的に合致したのではないだろうか。
 このような流れは、企業が自律的にコンプライアンスやCSRに取組むモチベーションを立法に採り入れ、安全・安心な社会の構築という法目的をいかに達成するかという、社会安全政策論に重要な示唆を与えている。
 (関西大学 社会安全学部・大学院社会安全研究科 教授・博士(法学))
 2022年10月10日