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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

AOMのMSR研究(常任理事・理念哲学研究部会会長 村山元理)

 現在、元総理の国葬を巡って国論が二分されている。その背景にはある宗教団体と安倍氏との関係性が十分に調査されていないことへの国民の不信感がある。教団の壮麗な宮殿のための過度な献金が正当化されるなら、誰のための信仰なのかを問わねばならない。
 無宗教という日本語があり、宗教という日本語には悪いイメージがつきまとっている。
 では宗教はすべて否定され、信じるに値しないものであろうか。マックス・ウェバーのプロ倫の議論は過去のことではなく、今でもクリスチャン経営者の集まりがある。近江商人たちは熱心な浄土真宗の門徒であった。ジョブズなどIT企業家と坐禅との関係性も深い。
 松下幸之助が昭和7年に天理教の本部で信徒たちが熱心に神殿普請している姿に感銘を受けたことで、松下電器(現パナソニック)の経営理念を再構築した。その年は同社の命知元年となった。当時の親里地場を巡った幸之助の足跡については住原則也 の『命知と天理―青年実業家・松下幸之助は何を見たのか』天理教道友社(2020年)が詳しい。
 いつの時代でも宗教心とビジネスの関係は普遍的に存在してきたのではないだろうか。
 目に見えないものによって私たち人間が生かされている、生きているという信念や感覚は言語化しにくいものであるが人間の本性に備わっている。こうしたInner lifeとMeaningful work、Sense of communityの3要素を変数とする「職場のスピリチュアリティ」(Spirituality at work)の概念やその研究方法は盛んにMSRの研究者たちによって論じられてきた。
 MSRとはAOM(アメリカ経営学会)の中でも2000年に創設されたInterest groupであり、宗教やスピリチュアリティが経営理念や実務に与えるインパクトをその主要なテーマとしている。その会員数は630人で、確立されたDivisionではないが、ヨーロッパやアジアにも会員を増やしている。私はその創設の頃から関心を持っていたが、三井泉教授と磯村和人教授のご縁で、AOMの直観シンポジウム(The power of "Souji" to increase intuitive familiarityのテーマで共同発表)に参加した。そしてついにMSRのColloquiumにもオンラインで初参加を試みた。
MSRの2代目の会長であり、学恩のあるJudith Nealの顔をはじめてみた。MSRの初代会長のGerald Bibermanと瞑想やヨガを実践し、ヒンドゥー教のリーダーシップ論も聞けた。倫理を補完するものとして、スピリチュアリティという概念がある。働きがい、生きがいの創造を求めて、今後もこのテーマを追っていきたい。  
(学会誌編集・論文審査委員会委員長、駒澤大学教授、博士(商学))
 2022年9月10日

役員コラム「経営倫理の窓から」