会員マイページ

日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

「企業市民」に出会って30年 (副会長 葉山彩蘭)

 私は台湾台北で生まれ育った。日本に来る前は、日系航空企業で3年以上働き、高品質な日本の航空サービスを顧客に提供し、誇りをもって仕事をしていた。当時、私の大学の友人の多くはアメリカの大学院を進学先として選んだが、私は日本企業での経験に後押しされ、日本の大学での留学を志すようになった。
 MBAプログラムで出会った言葉が「企業市民」だった。当時は、ソーシャル・マーケティングのアプローチから、企業は社会から信頼されるために、良き企業市民として行動しなければならないと学んでいた。しかし、企業市民という言葉を探究すればするほど、企業の経済的役割と社会的役割の両方が含まれることから、この言葉はビジネスモデルとして発展させることができると考えた。その後、博士課程へ進み、社会と企業の関係を研究し続け、博士学位申請論文の中では、企業市民ビジネスモデルを発表した。さらに、2008年には『企業市民モデルの構築--新しい企業と社会の関係』という拙著を出版した。このビジネスモデルは、一方では企業の経済的活動を通して経済的価値を創出し、他方では社会的貢献活動を通して社会的価値を向上させることができる、最終的には企業と社会の両者の持続的な発展を実現できるものだと主張した。その時から私のアカデミックミッションは企業市民ビジネスモデルを伝えることとなった。
 しかし、私の「企業市民ビジネスモデル」よりも、2011年に発表されたPorter & Kramerの「Creating Shared Value(共通価値の創造)」モデルの方がよく知られている。共通価値創造のビジネスモデルでは、企業が社会課題をビジネスチャンスに変え、経済的価値と社会的価値を同時に達成することができると提唱されている。
 企業市民ビジネスモデルであれ、共通価値創造ビジネスモデルであれ、社会と企業の共存共栄が共通目的である。また、企業市民や共通価値創造は、どちらも輸入された概念だ。日本企業がこの二つの概念を独自の取り組みを通してさらに発展させ、企業経営の倫理的基盤を構築してほしいと願っている。
 今日、環境、貧困、教育、衛生、平等など、様々な社会課題に取り組む必要がある。日本企業には経済的パフォーマンスや社会的評価といった動機にかかわらず、国際社会における社会課題の解決や改善に、より積極的に取り組んでほしい。また私たちは、一個人として、あるいは一企業として、世界の持続可能な発展のために、何か貢献できることはないかと試みていかなければならないとも思う。
 (淑徳大学経営学部教授)
 2022年5月5日

役員コラム「経営倫理の窓から」