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日本経営倫理学会

理事コラム「経営倫理の窓から」

創立者の熱い想いと先見の明(常任理事 馬越恵美子)

 2004年の秋だったと思う。日本経営倫理学会を創立され、初代会長を務められていた水谷雅一先生より連絡をいただいた。どうしても直接会って話がしたいとのこと。突然のお申し出であったため、ちょっと驚き、これは何事かと思ったのだが、先生の温かな笑みを思い出して即答した。はい、喜んで!と。

 お会いしたのは都心の素敵なホテルのラウンジだったと記憶している。美味しそうな珈琲を目の前にして、私はいつになく緊張していた。水谷先生は、「これからは女性の時代なんだよね」と。そして単刀直入に、「馬越先生にぜひとも理事になっていただきたい」と。

 さて、2004年といえば、今から20年近く前のこと。学会の役員、特に経営関連の学会の役員は男性で占められていた。実は会員もほとんどが男性で、学会では後ろで少数の女性が息をひそめて座っていた光景を思い出す。ましては役員となると、女性は皆無と言っていいほど。今では多くの女性が活躍している多国籍企業学会でさえ、はじめての女性理事が誕生したのは2009年。かろうじて国際ビジネス研究学会には女性の理事が(私を含めて)2名いて、当時としては画期的なことであった。

 そんな状況を変えたいと思われたのだろう。水谷先生は私に白羽の矢を立ててくださった。実は経営倫理は専門分野ではなかったが、水谷会長の心意気に打たれて、お引き受けすることにした。その翌年の2005年から2015年まで、光栄にも、日本経営倫理学会の理事を務め、さらに2015年から今日に至るまで常任理事を務めさせていただいている。

 水谷先生は創立に当たり、このように述べておられる。
「前略・・・・この学会は研究対象や範囲が企業経営のあり方や根幹に関わるとともに企業内外の広範・多岐な分野にわたりますことに加え、経営学はもとより、法学・経済学・社会学・倫理学など多種分野の専門研究者や実務家などによる学術的・システム的な観点からのアプローチも必要であるため、企業人・学者を問わず、関心がある多くの人々に対していわゆる"開かれた学会"を目指して参りたく存じています。」

 この"開かれた学会"、ここに先生のインクルージョンの精神を感じる。インクルージョン・・これほど、当時の学会に欠けていたものはない、と言っても過言ではないだろう。

 そして、水谷先生はさらにこう続けておられる。
 「新しいこの学会が単なる研究学徒による内向きの勉強集団でなく、21世紀の新しい時代に適したビジネス現場の構築に役立ち、企業経営においても人間性と社会性が実現されるような社会の実現に寄与し得ることを心から念願している次第です。」

 内向きの勉強集団ではなく、人間性と社会性が実現される社会の実現に寄与したい、というところに、今日500名を越える会員を擁する学会に発展した息吹を感じるのである。そして現会長は女性である。水谷先生はどんなにかお喜びではないだろうか。温かい笑みの中に、先を見据えた不動のお心を感じたあの日を懐かしく思い出し、心よりの感謝をささげる次第である。合掌

(桜美林大学経営学系教授)
 2023年1月5日