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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

内部通報の認証制度が、改めて見直されるべき時代となってきた(常任理事 水尾順一)

 企業の不祥事が相次いでいるが、いずれも発覚の発端は内部通報によるものが多い。こうしたこともあり、近年、内部通報マネジメントシステムの重要性に対する社会経済における関心・認識が高まり、様々な関連法令等が適切な内部通報マネジメントシステムの構築を事業者に対し求めている。
 たとえば、ISO37002(国際標準化機構)、改正公益通報者保護法(消費者庁)、コーポレートガバナンス・コード(金融庁・東証)のほか、投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁)、コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(金融庁)、景品表示法(事業者が講ずべき表示等の管理上の措置についての指針)(消費者庁)、企業行動憲章 実行の手引き(経団連)、私立大学ガバナンス・コード(私立大学連盟)などが適切な内部通報マネジメントシステムの構築を事業者に求めているのはその表れである。
 「内部統制の最後の砦」とも云われる内部通報制度は、国内外におけるさまざまな環境の変化により、単にその整備・運用が求められる段階から、いよいよ、制度の質を各企業が客観的に証明できなければ大きなリスクとなる時代に突入した。そのことに対応できない企業は、内部通報制度の質を「証明できる企業」の後塵を拝すことになるだけでなく、ステークホルダーや法執行当局に対する説明責任を果たすことができず、コーポレートレピュテーションの低下につながることは論を俟たない。
 こうしたことを背景に2019年2月から消費者庁の内部通報制度認証(WCMS)がスタートし2022年1月末時点で133社が同認証を取得していたが、2022年2月1日から休止し現在に至っている。筆者はWCMS認証の提案者としてその後の企業の動向を注視しているが、WCMS認証の取得企業は、今後の対応を模索しているものと想像される。                       
 日本コンプライアンス&ガバナンス研究所〔JACGI〕では、日本における内部通報制度の将来を危惧し、前述のWCMS認証の休止後をカバーすべく、新たに内部通報マネジメントシステムの整備・運用状況を事業者が評価・点検するための「JACGI-内部通報マネジメントシステム・アセスメントシート(ISO37002+α評価・点検ツール)」の提供を2022年4月に開始した。
 期待される効果は、「国際的な通用性の高いISO37002、改正公益通報者保護法第11条に基づく指針およびコーポレートガバナンス・コードを踏まえた対応を行っていることから、ステークホルダーに対するアカウンタビリティの質および有効性の向上に結びつく」ことである。
 この「アセスメントシート」が、ステークホルダーに安全と安心を提供し、人権ガバナンスの内部制度化をとおして人権を重視する企業文化の構築につながることを期待したい。組織の持続可能な発展への道筋もここに見えてくる。
 (一社)日本コンプライアンス&ガバナンス研究所代表理事/会長
 2022年11月10日

役員コラム「経営倫理の窓から」