東洋経済新報社(1983)『日経ビジネス』が、「企業は創業から30年という時間の中で経営環境の大きな変化や経営者の世代交代(事業承継)などの経営課題に直面する。しかし、ほとんどの企業がこの壁を乗り越えられず、倒産・廃業などにより姿を消す」という "企業寿命30年説" を唱えた。一方で、様々な環境変化を乗り越えた創業100年以上の老舗企業も多く存在する(約5万社)。特に日本は、世界の長寿企業ランキングで断トツの1位のようである 。
そして、老舗企業には、受け継がれてきた「価値観」が存在しているとされている。上方商人の典型的な言葉に『そないな商売したら先代が泣くわ』という言葉がある。これは、先祖が築いてきた信用を傷つけてはいけないという思いであり、この思いが企業活動を律してきたのではないかとされている。
小職が四国地域に赴任し、しばらくしてからではあるが、四国地域の創業300年以上の老舗企業にインタビューするという機会を得た。本コラムでは、四国地域の老舗企業に伝わる訓え・心構えなどの中で『倫理観』に関連すると思われるものを一部であるが紹介したい。
■石工品製造業
「家訓として明文化したものはないが、『相手により品質・コストの飾りをしない』を先代から教わっている。」
■酒類製造業
「戦中・戦後は米が無くて酒が造れなかった。その頃は、背に腹は代えられないということで、多くの酒蔵では金魚酒(金魚が泳げるほど薄い酒ということ。)を造っていた。しかし、曾祖父は、売上が1/10に減少しても品質を落とさずに酒造りを続けていた。そのことは、古い社員からずっと言い伝えられており、当社が『品質至上』を実行していたことを示している。」
■化学品製造業
「伝統のある仕事は金儲けに走ると信用を失いお客様が離れてしまうが、祖父も父もそういうことをせず、利益よりも品質にこだわってきた。」
■酒類製造・卸売業
「卸売業では、安定市場や適正価格を守る取り組みが重要である。そのため、取引先に対して、原価割れするような不当な安売りはせず、長期的な取引につなげている。」
これらは、脈々と一種の使命感として受け継がれ、内発的ではあるが、倫理観の醸成に一定の効果をもたらしているように思われる。
四国地域に赴任し、5年目になるが、まだ、「お遍路(弘法大師〈空海〉が修行した88の霊場をたどる巡礼)」の旅をしたことがない。今後は暇を見つけて、お遍路をしながら、各地の老舗企業も訪ね、代々伝わる家訓などの話をもっと聞いてみたいと思う今日この頃である。
四国大学経営情報学部
(2024.07.15)