大学院時代に研究テーマとして「消費者の差止請求権」を選んだ。現在では消費者団体訴訟が制度化され、当たり前のようになったが、1990年代はその是非について議論が始まったばかりである。裁判官になりたての友人から「そんなものを実現させると社会が混乱する」と言われるような時代だった。
学位論文を提出した後、法の解釈を緻密に積み上げていかねばならない法律論文は自分には向いていないと感じ、「差止請求権を行使する主体」として調べていた消費者団体の研究に取り組むことにした。組織の成り立ちや構成員によって様々なカラーがあり、国によっても特徴があるところなどが面白かった。
21世紀に入り、消費者政策はそれまでの行政規制や民事ルールだけでなく、自主行動基準や自主規制、裁判外紛争解決手続きなど、事業者の取り組みや市場の力を活用する方向を目指すようになっていた。
その頃から、消費者保護制度の視点から消費者団体をみるだけでなく、企業と消費者団体が、ともにステークホルダーとして消費者政策にかかわっていく「行政・企業・消費者」の三者協働の在り方に関心を持ちだした。
「企業経営において、消費者政策や消費者団体はどう捉えられているのだろうか」
「長らく企業と消費者団体は対立しているように捉えられていたが、それではこれからの複雑な問題に対処していくことは難しい。海外ではどうなっているのか」
こうした問題意識を持ち、これまでにいろいろな国を回ってきた。
最近、日本では、「既存の消費者法制度では現在の状況に十分に対応できなくなってきている」という認識のもと、制度を理念から見直していこうという動きがある。そこでは、法律のように強制力を持つハードローだけでなく、拘束力はなくとも実質的な社会規範として機能するソフトローなど、種々の手法を取り入れて創り上げる実効性の高い規律が目指されている。これは、21世紀に向かうなかで目指された方向を再評価するような動きであるが、そこには消費者団体の政策提言機能の検討も含まれている。
欧米の先進的な国々では、消費者団体が消費者政策の一翼を担っていることが多い。近年は、消費者問題に対応するため、「行政・企業・消費者」の三者協議をしたり、コンソーシアムを形成したり、企業が特定の使途を示して消費者団体に助成を行ったりするなど、消費者団体と企業が協働する道を探っている。
日本はまだ政策上の消費者団体の位置づけが明確ではないが、これから消費者団体を有効に活用していこうとするなら、欧米をはじめ海外の様々な事例を参考にしながら、日本にとって最も良い方向を模索していくことが必要である。社会に存在感を示している海外の消費者団体はどのように生まれ、発展し、どんな役割を担っているのか。それを知ることは、今後の消費者団体政策を考えるための第一歩となる。
新しいシステムを構築するのならば、現状の消費者団体もそのままでは難しく、行政からの支援や企業との協働も必要となってくるだろう。筆者はこのような問題意識のもとに、海外の主要な消費者団体の特徴や、そこで働く人々について、できる限り現場の生の声を収集するように努めている。そこには、公式文書では読み取ることができない様々なヒントがある。日本の状況に合わせた新しい制度を作るうえで多くの示唆が得られると考えるからである。
参考:丸山千賀子『欧米の消費者団体―消費者政策のステークホルダー―』(開成出版,2024年)
(金城学院大学生活環境学部 教授)
2024年10月13日