日本のビジネス界の一部には、倫理観とかけ離れた時代遅れの悪弊が根強く存在する。業界内の横並び気質や企業と大口顧客とのいびつな関係といった商慣習はどうしたら断ち切れるであろうか。今回は、昨今業界全体の不祥事で話題となっている損害保険業界および過剰営業行為是正に向けた制度見直しが図られたばかりのLPガス業界の商慣行に触れてみたい。
損害保険大手4社に対する調査で、業界全体で価格調整が横行していることが分かった。自由な価格形成や公正な競争を行わず、横並びで利益を分け合っていた。2022年12月東急の担当者が損保大手4社から受け取った各社の保険料見積もりが同じような水準だったことに疑念を抱いたことが、問題発覚のきっかけであった。調査を進めるうちに、損保の営業担当者が強いられる異様な因習も表面化した。担当者は本業支援の名のもと、顧客企業のためにどれだけ奉仕できたかも取引を左右する。「使われなくなった展示車を自家用車として買わされる」「空き地を見つけたら地主を探してマンションを建てませんかと交渉している」(日本経済新聞朝刊.2024-08-09 )。
LPガス業界では賃貸集合住宅オーナーに対する過大な営業行為、度を越えた無償対応が問題視されてきた。ガス事業者が大家さんにLPガス契約の見返りとして、給湯器、ガスコンロといったガス機器を無償提供したことからはじまり、その後徐々にエアコン、Wi-Fi、インターフォン、便座システムなど様々な住宅設備費用を負担する商慣行に変化した。オーナーからの要求を断ると受注できなくなる事例もある。LPガス事業者が請け負ったコストは、賃貸集合住宅の入居者のガス料金に上乗せされる。LPガス事業者を指定される入居者は不透明に割高なガス料金を課され、料金に不満があっても選択の機会が事実上無く受け入れるしかない。これらの歪んだ状況を取り締まる改正省令が2024年4月交付された。
以上のような損保業界やLPガス業界の異様な商慣習の根本原因は、飽和市場に差別化困難な商品を提供する業態にもあるだろう。一企業の倫理観だけでは悪弊を乗り越えられない。フェアな市場競争には然るべきルールが求められる。
(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 非常勤講師、博士(SDM学)/ MBA)
2024年9月20日