企業不祥事の研究を長年続けてきて、不祥事が発生しやすい企業風土というものが確かにあることに気がつく。それらは、①営業・成果偏重主義、②聖域部門の存在、③リーダーシップの欠如と現場無関心、④現場社員・中間管理職の業務遂行能力の低さ、⑤独裁的専制的経営者の5つに集約される。これらは単独で発生することもあれば、複数が絡み合っている場合もある。例えば、昨年世間を騒がせたビッグモーター修理費不正請求問題では、①と⑤が特徴である。①③⑤は読んで字の如しだが、②と④については、私自身が仕事で関与して実感することでもあり、またあまり指摘する人もいないので、あえてその意図するところを書いてみたい。
「聖域部門の存在」は、ある特定分野の事業が他の組織ではさわれないような状況(祖業である、前代の社長が始めた等)が存在すると、次第にこれが聖域となり、牽制がきかなくなっていく。聖域部門が独走、暴走し始めると、誰にも止められない。特に合併事例に目立つのだが、合併しても複数の元の会社同士が完全に融和せず、あたかも独立的な存在であり続けようとして、互いに干渉しないようにする風土が形成されていく。そうすると、不都合な事象についても自らは勿論、他からも是正を求める声が上がることはない。最終的には溜まったガスが爆発する。
「現場社員・中間管理職の業務遂行能力の低さ」では、もともと日本の企業の管理職は、総じて"率先垂範"とか"根性発揮"は得意でも、自分が預かる組織の課題を見つけ出し、それを自らの力で組織を使って解決していく問題解決能力が不足していることが指摘されている。したがって、一つひとつの仕事が部下任せになり、チェックが働かないことが多く、部下の問題行為を見過ごすことにつながっている。
また、体系的な教育研修制度を持たない企業の場合、社員教育はOJT中心とならざるを得ないが、OJTは社員の育成に必要ではあるが、大きな問題点も抱えている。それはついた先輩社員の能力の限界が、そのまま教わる後輩社員の能力の限界になりかねないということである。1990年代半ばのバブル崩壊後しばらく、多くの企業が社員教育にコストをかけなくなっていたから、新人時教育訓練を充分施さないまま、即戦力として現場に放り出すことが平気で行われた。
仕事の基本をしっかり習得していない社員は、組織内に種々の問題を引起すとともに、難事案にぶつかった時に、困難を避け安易な解決方法に走り易い。そして先に述べた管理職の部下任せと合体すると、事態が一層混迷する。
不祥事に関する第三者委員会報告書では、不祥事再発防止策として、「企業風土の改革」を掲げるのが常だが、風土改革は掛け声だけでできるものではない。企業不祥事の再発防止として、しばしば制度や仕組み、規程・ルールをさらに重層複雑化することが試みられるが、当を得ていない。実は社員を大切にするというコンセプトのもと、体系だった社員教育や実務教育を粘り強くつづけるという、地味ではあるが本質的な取り組みが不可欠なのである。これが企業風土改革の近道であることを経営者は理解して欲しい。
2025年5月18日
(株式会社ジャパン リスク ソリューション代表取締役社長)