日本経営倫理学会第32回研究発表大会および総会が、2024年6月29日(土)~30日(日)に、関西大学社会安全学部高槻ミューズキャンパスにて開催されました。多くの方々にご参加頂き、誠にありがとうございました。
その関西大学のある高槻駅から電車で20、30分くらいのところにある大阪の経済・文化・行政の中心とされる中之島エリアには、「府立中之島図書館」、「大阪市中央公会堂」、「国立国際美術館」、「大阪市立東洋陶磁美術館」、「湯木美術館」など、文化・芸術・学術施設がありますが、近年、「中之島香雪美術館」(2018年開館)、「こども本の森 中之島」(2020年)「中之島美術館」(2022年)、「未来医療国際拠点 中之島クロス」(2024年)が加わり、このエリアはさらなる注目を集めています。
本年7月には、上述の大阪市中央公会堂、および大阪の南西部を流れる木津川の河口付近に広がる、北加賀屋の街で、国内のアートフェアの中では最も長い20年以上の歴史を持つ、現代美術に特化した「ART OSAKA」が開催されました。会期中、関西を中心として東京、そして韓国や台湾のギャラリーが作品を展示し、多くのコレクターや愛好家、アーティストたちが一堂に会した活気のあるイベントが展開されました。
しかし、2023年の世界美術品市場を分析するレポートであるThe Art Basel and UBS Global Art Market Report 2024 によると、世界の美術品市場規模650億ドル(約9兆6100億円)のうち日本の市場シェアは1%であり、トップの米国の42%、2位の中国の19%と比べるとかなり小さいといえます。この状況は、日本においては才能あるアーティストが作品の購入という形で評価される可能性が小さく、結果としてアートは産業として拡大していく道も閉ざされていることを示しているのではないでしょうか。
日本では、アートは地方創生活動の中で活用されたりすること多くなっていますが、企業とアートという文脈では、「支援」という言葉がしばしば使われ、企業のメセナ活動や社会的責任(CSR)としてアート作品が購入されたりアーティスト支援が行われたりしています。とはいうものの、最近は、莫大な資金を必要とする展覧会や個展にもバブル経済期のようには資金が集まらないため、企業のメセナ活動型の支援に代わる新たな仕組みが必要とされているといえます。
一方、近年、好きな作品を自分の部屋に置きたいという素朴な動機でアート作品を購入する個人愛好家が増加し、集めた作品を友人間で鑑賞しあい感動を共有したり、作家やギャラリーとのコミュニケーションを楽しんだりしているようです。彼らは、敷居の高い著名アーティストの高額の作品ではなく、自分が気に入った作品に囲まれて生活したいという『日常のアート』消費の欲求を持っていると考えられます。つまり、アート作品を投資の対象としたり支えるために購入したりするというのとは異なるムーブメントが一般化しつつあります。
このような傾向の背景には「好きなアート作品を日常の生活の中で楽しむことは自分の人生にとって大切なことである」という価値観が存在すると考えられます。そして、その価値観こそが「支援する側」と「される側」という上下の関係から、「アート・アーティスト」と「コレクター・愛好家」の水平な関係への移行を促進すると推察されます。現在、この変化に注目しつつ、今後、その水平関係が日本の新たなアートビジネスの発展をも牽引するのではないかと期待しています。
(拓殖大学副学長・商学部教授)
2024年8月3日