この夏、学生を引率してオーストラリア・クイーンズランド州(QLD州)にあるグリフィス大学を訪れた。文部科学省の令和4年度公募事業「大学の世界展開力強化事業」として採択された、「レジリエントな社会への変革をリードする産官学連携ヨコハマ国際教育プログラム―YOKOHAMA-SXIPプログラム―」の一環として、持続可能な未来社会を創造するSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)人材を育成することを目的とした海外研修である。
今回渡豪した学生たちに対し、現地大学の教員より、「日豪企業のサステナビリティ戦略・パフォーマンスに関する比較分析を行い、相違点が生ずる場合、その理由を環境・社会・ガバナンスの視点から考察する」といったお題が与えられた。必要な情報を自ら収集・整理し、最終日に英語でプレゼンテーションを行うというミッションが日本人学生たちに課せられたのである。学生たちは、現地環境団体主催の海洋生物リサーチや、自然保護公園等での課外活動もこなしつつ、日豪企業の分析を着々と進めていった。
キャンパスのあるQLD州は、ブリスベンやゴールドコースト等、都市部からリゾート地までをカバーするオーストラリアで2番目に大きい州である。QLD州では、昨今のインフレを考慮し、公共交通料金を一律50セント(約50円)にする政策を昨年から実現している。ゴールドコーストからブリスベンまでの電車賃を例に挙げると、値下げ前は約15ドル(約1,500円)であったことから、この政策により30分の1にまで電車賃が削減されたことになる。オーストラリアでは通勤費はすべて自己負担ということもあり、この削減策には現地の多くのビジネスパーソンが恩恵を受けているそうだ。また、車通勤からシフトさせることで温室効果ガス排出量の削減や、交通渋滞の緩和も目指していると聞く。電気代についても、一世帯年間10万円の補助を出す等、環境と経済を支える政策をスピーディに展開しているのである。
学生たちは、ホームステイをしながらの研修であったため、早寝早起きの習慣、多くの国立公園にすぐにアクセスできる環境、生ごみを自家製肥料にする取り組み等、座学だけでは学ぶことのできない、現地の生活や文化にも触れる機会を得た。国際的かつ持続可能な未来社会を創造する視野を持つ次世代の人材を育成する上でも、コンフォートゾーンを抜け出し、異国の地で学ぶ機会を得ることが重要であると再確認した研修であった。
2025年11月2日
(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 准教授)