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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

コペンハーゲン出張から考えるサステナブルな社会(理事 田中 敬幸)

 2025年夏、コペンハーゲンで開催されたSBE(Society for Business Ethics)およびAOM(Academy of Management)に参加した。私にとって両学会ともコロナ禍以降初の現地参加であり、ヨーロッパ開催という点で、とても印象深い出張となった。
 ANAでフランクフルトへ向かい、ルフトハンザ航空に乗り換えた。ルフトハンザの機内食で強く印象に残ったのは、ほぼプラスチックが使われていなかったことである。カトラリーはナプキンで包まれ、パンやシリアルにもラップやプラスチックのカバーは用いられていなかった。脱プラスチックの実現はこうした細部の積み重ねが重要なのだと感じた。
 コペンハーゲン市内では、自転車が多かった。自転車専用レーンが充実しており、電車にも自転車をそのまま持ち込める。Googleの地図アプリには、現在利用可能なシェアサイクルの位置が表示される。移動の選択肢が、特別な意識を持たなくても自然に提示される環境が整えられているように感じられた。
 もう一つ印象に残ったのは、使い捨てカトラリーである。スーパーやコンビニで購入した食品をホテルの部屋で食べようとしても、プラスチック製のスプーンやフォークがついていないし、そもそも店で売られていない。何件か店をまわり漸く木製のカトラリーを入手することができた。日本でも徐々に普及しつつある素材である。重要なのは素材そのものよりも、使い捨てカトラリーの使用を前提としないことが「標準」となっている点なのだろう。
 こうした経験を通じ、日本のあり方を改めて考えさせられた。日本はこれまで、プラスチック削減よりもリサイクルを重視してきたが、フィルムやラップのようにリサイクルが難しい素材をどう扱うのかという課題は残る。非石油由来であっても、焼却すれば温室効果ガスの排出は避けられない。利便性を理由に、使い捨てプラスチックが今なお「標準」として提供されている場面も少なくない。
 コペンハーゲンで感じたのは、倫理的行動を個人の善意に委ねるのではなく、「そうせざるを得ない環境」を制度と設計によってつくることの重要性であった。サステナブルな社会の実現は、個々人の意識改革だけでなく、企業や組織がどのような標準や前提を設計していくかという、きわめて経営的な課題なのである。

 2026年1月10日
(拓殖大学商学部教授)

役員コラム「経営倫理の窓から」