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日本経営倫理学会

役員コラム「経営倫理の窓から」

サステナビリティ情報開示をめぐる潮流(理事 森田充)

 近年、サステナビリティ情報開示をめぐるフレームワークや基準は、TCFD、ISSB、SSBJ、CSRDなど、いわゆる「アルファベットスープ」と呼ばれるほど目まぐるしく変化している。
 日本では2023年3月期から、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられ、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差といった多様性指標の開示も求められるようになった。さらに2025年3月にはSSBJ基準が公表され、投資者に有用で比較可能な情報を提供する枠組みが整えられつつある。プライム市場の大規模企業から段階的にSSBJ基準準拠の開示を義務付ける方向が示されており、時価総額3兆円以上は2027年3月期、3兆円未満1兆円以上は2028年3月期、1兆円未満5,000億円以上は2029年3月期からの適用が想定されている。他方、世界では、IFRS Foundationによれば、2025年6月時点でISSB基準を採用し、又はその他の形で利用し、もしくは導入に向けた最終段階にある法域は30を超え、主要な市場での標準化が加速している。このような制度整備は、投資者に有用で比較可能な情報を提供し、市場における企業価値評価の精度を高めることを志向するものである。
 もっとも、制度が整っても、それ自体が企業価値へ自動的につながるわけではない。先行研究では、義務的ESG開示が価格発見効率を改善し、機関投資家保有の変化や企業価値の上昇を伴いうることが示されている。だが、そこで効いているのは外形的なページ数の増加ではなく、情報の非対称性を下げ、企業固有情報を市場により早く織り込ませる効果である。だからこそ本当に問われるのは、環境、人的資本、ガバナンスの情報が、経営戦略、資本配分、リスク管理、将来キャッシュフローとどうつながるかである。単なるチェックリスト型のいわゆるボックスティッキングな記述ではなく、意思決定に使える説明が必要なのである。さらに金融庁のワーキング・グループでは、保証を開示義務化の翌期から導入し、当初は限定的保証を基本とする方向が整理されている。保証は開示を飾るための単なるお墨付きではない。企業が語るサステナビリティを、投資家が信頼して用いることのできる情報へと変えていくことが重要である。

 2026年3月10日
(青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)

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